金沢市民にとってもっとも身近な山、卯辰山(うたつやま)。
一帯は公園として整備されており、お花見の時期は特に賑わいます。
また山の上の展望台からは、金沢の街並みはもちろん、遠く雪をいただいた山々から日本海までが一望できます。
なんとなく車がないと行きづらい気がする卯辰山の見晴らし台まで、徒歩で行ってみました。
卯辰山とは
兼六園からは直線距離で1.5キロほど、ひがし茶屋街の後ろに見えるのが卯辰山。泉鏡花の小説の舞台になったり、かつては動物園などの娯楽施設があったりと今も昔も金沢市民にとっては身近な山です。山の上からはお城の中まで丸見えになることから、江戸時代は加賀藩によって厳しく警戒されていたそうですが、それでも春のお花見、秋は月見に紅葉にキノコ狩りと、身近な里山として人々から愛されてきました。
卯辰山へ行く路線バスは、北陸鉄道の90系統・卯辰山線。山の上にある「卯辰公園」バス停まで行ってくれる便は平日3往復、土日祝日は2往復、運行しています(2023年4月現在)。
天神橋から出発
大阪ではありません(念のため)。浅野川に架かる天神橋は「滝の白糸」で知られる泉鏡花の小説「義血侠血」の舞台のひとつ。「城下まち金沢周遊バス」のバス停やひがし茶屋街からは徒歩10分くらい、德田秋聲記念館そばの「梅ノ橋」からひとつ上流に架かるアーチ形の橋です。
天神橋を渡ったところに卯辰山公園の案内板があります。この案内板の横から帰厚坂(きこうざか)を上っていきます。
帰厚坂
天神橋から花菖蒲園まで真っすぐに行けるこの坂は、ぐるぐるとくねって走る車道・卯辰山公園線と比べると随分ショートカットになっています。とはいえ、登り始めてすぐに息があがって日頃の運動不足を反省することに。ただ、全行程で一番きつく感じたのがこの坂なので、ここを過ぎれば比較的ラクに登れます。
この坂は、加賀藩最後の藩主・前田慶寧公が幕末の慶応3年に卯辰山の開拓に着手した際に作られました。西洋の医療・福祉制度をお手本に、療養所や作業所が設けられたほか、芝居小屋なども作られたそうです。なお、この開発計画は明治維新により頓挫してしまいます。
千杵坂
帰厚坂を上りきると花菖蒲園の前に出ます。この花菖蒲園では、毎年6月から7月にかけて約20万本の花菖蒲と約2,900株の紫陽花が咲き乱れ、散策したり写真を撮ったりする方で賑わいます。お車の方には駐車場もありますよ。
花菖蒲園の右手の鳥居をくぐると緩やかな千杵坂(ちきねざか)。鳥居のわきの石碑に愛宕神社の文字が見えますが、この坂が卯辰山三社(愛宕神社、卯辰山天満宮、豊国神社)の入り口です。
日暮ヶ丘
千杵坂を上りきると開けた場所にでます。ここが日暮ヶ丘。ここからの景色はいくら眺めても見飽きない、すぐに日が暮れてしまう、と言われていたとか。
その卯辰山開拓に先立つこと9年前、安政の泣き一揆はこの場所で起こりました。安政5年の長雨で米価が高騰、困窮した大勢の民がここからお城に向かって「米をくれ」と訴えたと言われています。実際にその場所に立ってみると金沢城はすぐ目の前。民衆の声はお殿様にも聞こえていたでしょうか。
三之坂、二之坂(開基坂)、一之坂
日暮ヶ丘から振り返ると、卯辰山三社に向かって階段が続いています。途中、古そうな石碑やいわくあり気な広場のわきを通ります。ひたすら上ってもいいですし、途中で気になったものがあれば、休憩がてら近くで眺めたり案内板を読んだりするのもいいでしょう。
業平の井戸
卯辰山には、伊勢物語で有名な業平の井戸があります。それがこちら。
井戸の脇に案内板がありましたが、写真を撮ってくるのを忘れました…… 本来、大和の国にあった井戸が金沢に移されて残っているのだそうです。「筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに」の歌は有名ですが、現在の姿は背比べできそうに見えません。でも、この佇まい、夢幻能の名作「井筒」の雰囲気にはぴったり合うように思います。
卯辰山三社
愛宕神社、卯辰山天満宮、豊国神社の三社を卯辰山三社と呼びます。それぞれの縁起については長くなりますので、興味のある方は調べてみてください。
豊国神社の脇を抜けてさらに進むと、朱塗りの橋があります。筆者が訪れた時はちょうど八重桜が満開。鳥居、橋、桜となんとも日本的で絵になる場所でした。なお、この鳥居をくぐると車道に出ますが、例によって車道はぐねぐねと遠回りをしますので、引き続き近道を上ることにします。
豊国神社の裏手の参道にかかる豊国橋。朱塗りの橋と神社の鳥居と八重桜。外国人のグループが来て記念写真を撮っていたのを見たことがあります。 pic.twitter.com/L3kZwGnYBu
— 金沢市旅館ホテル協同組合🌷事務局 (@kanazawayado) April 16, 2023
獅子帰坂
豊国橋を渡って鳥居をくぐり、車道のわきから遊歩道に入ります。この坂は獅子帰坂(ししかえりさか)という名がついているそうです。傾斜も緩く眺めもいいので楽しく歩けます。
上りきるとカフェがあります。
カフェひよこまめ@cafe94740300さんで一休み。ここまで来たら目的の見晴らし台はすぐそこです。いつもは車で来て美味しいコーヒーとケーキを楽しんでます。 pic.twitter.com/qrRtIugHhD
— 金沢市旅館ホテル協同組合🌷事務局 (@kanazawayado) April 16, 2023
見晴らし台
カフェから先は車道に沿って歩き、この日の目的地、見晴らし台に到着です。天神橋から見晴らし台まで、約2,300歩、歩いた距離は1.6km、30分ほどで登ってこられました。
この場所からは医王山、戸室山の山並みや浅野川沿いの河岸段丘、金沢城公園の石川門や五十間長屋、兼六園の緑、北陸新幹線のまっすぐな高架、さらに日本海に沈む夕日まで、色んな金沢を見ることができます。
近くには徳田秋聲文学碑や望湖台(展望台)といった見どころもありますよ。
帰りは山野草園から
花菖蒲園まで来た道を戻り、その先は山野草園の中を通って下りました。公園のように整備されている遊歩道を降りていくと、観音坂(女坂)の途中に出ました。寿経寺は、先ほどの安政の泣き一揆で処刑された7人の首謀者を供養する七稲地蔵が祀られているお寺です。
町から近いとはいえ山は山。早朝や日没後に徒歩で登るのは避けてください。夜景を楽しみたい方は自家用車やタクシーでどうぞ。
ひがし茶屋街からは、観音坂(女坂)や子来坂を通っても、同じように花菖蒲園まで行くことができます。
リーフレット
MAP
お問い合わせ 金沢市役所 緑と花の課 076-220-2356
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