旅館やまむろさんにお邪魔した際、フロントに六角形の板が下げられているのを見つけました。伺ったところ、大の月には「大」の面、小の月には「小」の面を表にして掛けておくものだそうです。
旧暦では、大の月(30日まで)と小の月(29日まで)の並び方が毎年バラバラでした。そのため江戸時代の商家では、月末の支払いなどを間違えないよう、店頭にこのような大小板(大小暦)を掛けていたのだそう。
でもやまむろさんの創業は明治26年。もう今と同じ太陽暦になっていたのでは…?
実は金沢の商家には、このような板を火除のお守りとして掛ける習わしがあったようなのです。
犀川大橋の近くにある妙慶寺に伝わる天狗の伝説がその由来でした。
妙慶寺の住職さんがある日トンビを助けました。
すると住職さんの夢枕に天狗が現れます。
助けたトンビは実は天狗の化身で、助けてもらったお礼にと八角形の板に「大」「小」の文字を彫ったものを、火難から守ってくれるお守りとして授けていきました。
そのお陰で、かつて蛤坂で火事があった時にも、この妙慶寺は焼けずに済んだのだそうです。
ー 金沢の民話と伝説『天狗さんの寺』
ところで天狗が授けていった板は八角形で、やまむろさんにある板は六角形。六角形といえば金沢城の土橋門石垣にも六角形の石(=亀甲石)が嵌め込まれています。六角形は亀の甲羅の形であり、亀は水に棲むことから、火除けのお守りになるそうです。
六角形の大小板、二重の意味で火除けの効果がありそうです。
富山県、五箇山にある合掌造りの建物、岩瀬家にお邪魔した際には、伝説のとおり、まさに八角形の大小板がかけてありました。
また、飛騨高山の日下部民芸館で見た大小板(月暦)は丸型でした。こちらもよくある形のようです。